大判例

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東京高等裁判所 昭和53年(う)350号 判決

被告人 齊田幸雄 外二名

〔抄 録〕

そこで<中略>被告人齊田らがした平和相互銀行に対する本件不動産の担保提供行為が横領といえるか否かについて検討すると、前示のとおり被告人齊田らが、岩野正三らから一誠に譲渡された本件不動産を含む前記岩野家不動産につきその権利証、登記済証、一誠代表者印等を預ったのは岩野正三がテニスクラブ建設に関し負担するに至ったぼう大な債務を整理するため売却を含む一切の処理を委せられたことによるものであったことは明らかであり、同不動産を担保に他からの融資を仰ぎ、これをもって一誠が右岩野から引継いだ債務を解消するためにテニスクラブ等の事業を再興することも、また直接その弁済に充当することも、一誠の代表取締役となった右岩野正三をはじめ、一誠の前記構成役員らにおいてもとより何等の異存もなかったものというべきであるから、原判決が同被告人らにおいて本件不動産等を担保として同会社のため銀行融資を受けるよう委託されて本件不動産の登記済証及び一誠の代表取締役印等を預りこれを占有していたものとしたのは委託の趣旨が単に銀行融資を受けることのみに限定されていたかのように解される点で不正確であるが、被告人らの右不動産についての占有状態の認定としてはなお、誤りはないものということができる。しかしながら原判決は、同被告人らが本件不動産を被告人らの属するゼネラル交易及び前記基礎工事の用途にあてるため勝手に平和相互銀行から借り受ける一億六、〇〇〇万円の担保として同銀行に差し入れ、同銀行を権利者とする極度額一億九、二〇〇万円の根抵当権設定登記をしたことをもって横領とするものであるが、もともと横領とは委託の趣旨に違反して権限のない処分行為をすることであるところ、前示のように被告人齊田は本件を含む岩野家不動産については債務の処理に万策つきた岩野正三から頼まれその整理のための処分を委されていたものであること、そのため債権者との折衝やその利用先や融資先を探し求める努力を続けたがいずれも成功せず、債権者に対する支払も滞ったままであった等の事情を考慮しつつ更に検討すると、一誠自体は休眠中であったものを復活させたばかりの会社であって銀行との取引はなく、直接銀行から融資を受けることはもともと困難であり、被告人齊田の主宰するゼネラル交易も経営難で同社を通じて融資を受けることも不可能であったところから、被告人らは、平和相互銀行と取引があり、担保物件さえあれば同銀行から融資を受けることができた基礎工事に本件不動産を担保として同銀行からの融資を受けて貰い、その融資金を借り、これをもって一誠の債務の弁済を図り、その際、基礎工事としては右の融資金の一部を自社のため使用する利益を得たいがため融資前に被告人齊田らにそのことの了承を求め、その利益を得るかわりに融資金全額についての金利は同社が負担することを被告人齊田らに約したので同被告人らもこれを了承し、かような約束のもとに平和相互銀行からの前記融資(手取額一億五、七〇〇万円余)を受け、被告人齊田らはその一部五、〇〇〇万円を借り受けて前記債務等の弁済に充てる等前示のとおり使用されたことが認められるから、被告人齊田らが一誠の債務を返済するため前記不動産を担保に供し基礎工事に銀行融資を受けて貰ったうえその一部を借りる方法をとったことは資金捻出のための一方法として許容されるところであり、右担保に提供した行為をもって委託の趣旨に反するものとは解せられず、その融資金の一部を基礎工事に使用させることも、同社においてその金利のすべてを負担するという約束であったことを考慮に入れると、一概に許されないこととして非難し難いものがあり、なお右の融資を受ける際、平和相互銀行と密接な関係にあって本件融資に尽力しその連帯保証人となった前記正和恒産株式会社の依頼により融資金のうちから若山富三郎に四、〇〇〇万円を融通することになっていて、融資を受けた直後そのように取り計らわれたことが認められるが、この点も前同様本件融資を受けるために事実上承認せざるを得なかったやむを得ない措置とみるのが相当であるばかりでなく、更にゼネラル交易ないし被告人齊田が利用したとみられる前記約六、七〇〇万円の点について考えてみても、前示のとおり、本件を含む岩野家不動産は当時岩野正三らが負っていたテニスクラブに関する合計一億一、一六七万円の債務を一誠が代位弁済することの条件で一誠に譲渡されたものであり、同時に右テニスクラブの再建を意図するとしても最終的には右岩野正三らの家屋敷さえ人手に渡らぬよう確保できて、右の債務が清算できれば、一誠すなわち実質的には被告人齊田らの債務額減額交渉等の努力により仮に一誠側に利益が残っても、岩野正三らからその返還を請求したりはしないとの約束がなされており、しかも被告人齊田らの右努力に対する報酬については格別何等の契約もなされていない実情にあったのであるから、右契約の趣旨は同被告人らが右債務の全部につき完済するまでは、右不動産を債務弁済のため以外には全く利用しえないとするとまではいい難いのみならず、右債務については本件融資の前後に支払った約五、〇〇〇万円分以外については、三、六六〇万円相当の石垣組に対する債務をはじめ、その減額を交渉するため直ちには支払えない事情にある債務もあったことが認められ、これらの事情にもかんがみると、本件融資金の一部を被告人齊田らの経営するゼネラル交易のために一時流用し利益を挙げようとしたとしても、これが岩野正三らや一誠との約旨に背反する行為とは直ちにはいい難く、現に事実上被害者の立場にある岩野正三は当審公判廷において、本件不動産を被告人齊田らに勝手に処分された、すなわち横領されたとは全く思っておらず、むしろ同被告人らは苦境を救ってくれた恩人と思い、債権者からの追求も受けず、自己の家屋敷で平穏に暮せることに感謝している旨証言しており、前記与五沢廉司の原審及び当審公判廷における証言、与五沢克明の当審公判廷における証言中にも同趣旨の供述がみられるのであって、上記諸事情に徴すると、同被告人らが本件不動産を平和相互銀行よりの融資の担保に提供する際その融資金の一部を本件テニスクラブ関係以外のゼネラル交易等のために使用する意図があったとしても、その故に右担保提供行為を直ちに委託の趣旨に反した横領行為と断ずることは相当でないといわなければならない。

もっとも岩野正三の検察官に対する昭和五二年七月二一日付、同月二五日付各供述調書中には、右岩野らが一誠に岩野家不動産を売渡す契約を結び被告人齊田らに登記済証等を渡したのはあくまでもテニスクラブの再建を図るためのものであり従って右不動産を抵当にして融資を得た金員はすべて右目的にのみ使用する約定であった趣旨の供述記載があり、被告人齊田、同加藤、同新田の各検察官に対する供述調書中にも簡単ではあるが右と同趣旨の供述及び同被告人らが岩野に諒解を得ることなく本件不動産を担保に提供して横領した旨の供述記載が見られ、原審公判廷においても本件起訴事実を自認しているのであるが、右各供述記載中には前示昭和五一年三月二七日付売買契約書ことにその特約事項や同日付念書に記載されたテニスクラブ関係債務の整理のため被告人らに岩野家不動産の処分を委託する趣旨の約定に触れたものは全くないのであり、これを右各書面写の存在及び記載内容並びに原審証人与五沢廉司の証言ことに「田舎のことで家屋敷を借金のかたに失ってはもうそこにいられなくなるので被告人齊田にお願いしたのはテニスクラブの完成のためではなく、一切の整理という意味で、家屋敷さえ残れば、それでよかった」との趣旨の供述記載及び被告人齊田の当審公判廷における、「母のひん死の状況や妻の病気のため早期釈放を願って不本意ながらすべて認めた」旨の、また被告人加藤、同新田の当審公判廷における被告人齊田の釈放を図って同被告人に同調した旨の各供述に照すと、前記各検察官に対する供述調書中の供述記載部分は、被告人齊田らが本件不動産の処分について岩野正三から委託された趣旨内容を正確に供述したものとは認められず、到底措信することはできない。

以上のとおりであるから、岩野正三らとの特殊な関係から、その所有不動産について売却を含む処分を一任されるという特別の契約を同人らと結んだ被告人齊田、同加藤、同新田らとしては、確かに右岩野の債務を清算するために預り占有していたとしても、右不動産の処分については相当程度に幅広い権限を一般的に与えられていたと解すべきであり、従って本件不動産を融資金を得てその一部は右債務の弁済に充て、一部はゼネラル交易及び基礎工事の用途にあてるために平和相互銀行へ担保として差し入れ、これに原判示の根抵当権設定登記をしたこともまた被告人齊田らに委ねられた事務管理の権限内に属することと認め得ないわけのものでもないから、結局本件の担保提供行為を委託の趣旨に反した越権的処分行為、すなわち横領に当ると断定した原判決の事実認定には誤りがあるといわざるを得ず、この誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。そして以上に認定した諸事情に徴すると、同被告人らの右担保提供行為あるいは平和相互銀行から得た前記融資金をゼネラル交易や基礎工事のため使用した所為はなお被告人齊田らの任務の範囲内に属すと解することができ、これをもって背任の罪に問擬することにも多大の疑問があるから、結局本件については犯罪の証明がないとして無罪の言渡をするほかない。

(千葉 永井 中野)

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